ベルクソンの「物質と記憶」を中心に、心脳問題について、過去にmixiで書いた文章を推敲し直して載せています。

テキストは、アンリ・ベルクソンの「物質と記憶」第2刷(ちくま文芸文庫版、合田 正人、松本 力訳)を使っています。『ベルクソン「物質と記憶」メモ』と記事のタイトルにあるものの引用文のページと行はこのテキストのものです。


2009年12月11日金曜日

心脳問題とクオリア(mixi:2009年01月20日)

心脳問題をまず簡単に説明しよう。
心脳問題は、心の動きや魂など総じて哲学的に霊的な活動とされていることを、自然は脳の物理的な現象として表現するような無駄に贅沢なことを許すだろうか?という問題に帰着すると言っていいだろう。

日本ではじめて堂々とやっていたのは、小林秀雄さんだと思われる。

文学界かなにかの文芸誌にベルクソンについての評論を連載していたようだが、しかし、それも途中で止めたようだ。

ようだ、というのが続くのは、このベルクソンに関する評論は、後に公表することを禁止したからで、そのせいか全集でも別冊として小林さんの死後に出版されている。

それで、私も心の師匠として仰いでいる小林秀雄さんがだめだと言って公表を禁止した作品を読むようなことはしていない。

しかし、他の全集に含まれている文章から推察すると、フランスのノーベル賞ももらったことのある哲学者で心理学者でもあるこのアンリ・ベルクソンの研究はよく読まれていたようである。

小林さんがその他の文章で紹介している中で、わかりやすいのは、海馬の研究の話だろう。前後関係は良く分からないのだが、たぶん第一次世界大戦でいろんなけがをした患者さんがいたのだろう。その中に、脳の海馬を傷つけられた人がいた。その辺りの研究をしていくと、どうも海馬というのは記憶を司っているようだ、というのがわかってきた。

とこが、いろいろ調べていくうちに、記憶自体はどうも残っているようなのだが、海馬を傷つけられると思い出せなくなる。つまり、海馬というのは記憶というオーケストラを意識的に働かせるための指揮者の働きをしているに違いない、という結論に達してきた。


それからは、いろんな事がやられてきたが、だいたいのことをおおざっぱに、いま私の知っている範囲で心脳問題のことを簡単に話しておくと、以下のようになるだろう。

脳科学の研究、あるいは、チューリングマシンに始まる人工知能の研究、あるいは、この前ノーベル賞を取った益川さんもやろうとしていたパーセプトロンに始まるニューラルネットワークのような、いわゆる非ノイマン型のコンピュータの研究などを総合すると、どうもやっぱり物理的な現象で心の働きを記述するのは無理じゃないのか、と思われてきている。

学会なんかでは、なんか具体的な成果を上げないといけないから、MRIとか何とかを使った研究で様々な現象を成果として報告されてたりするけれども、やっぱりクオリアという物を仮定して、それが脳内の物理現象と心という精神活動を結びつけているんじゃないかというのが現段階ではもっとも合理的な判断じゃないかと思われてて、それをやってる人でもっとも日本で有名なのが茂木さんと言うことでしょうね。

心脳問題が、どうして物理的な現象だけで説明できないか?と言うことが、少しずつでも認められるようになってきたか、ということの背景としては、量子物理学の波動関数の収縮問題というのがあって、どうも量子というのは観察されて初めてその状態が決まるということが実験の結果からほぼ間違いない事実として認めれたことにあるだろう。

もう少しこの辺りを詳しく説明すると、実は量子力学で扱う力を統一したものとしてに説明するのに大きく二つの理論があって、一つは、量子物理学の理論を心脳問題の説明にも使えないかと思われているのがペンローズ先生のツイスター理論。これは、茂木さんも紹介するための本を友人の竹内薫さんと本を出されていたりもする。(ペンローズの“量子脳”理論―心と意識の科学的基礎をもとめて (ちくま学芸文庫) )

このほかにを、もっとも有力と思われているこの前ノーベル賞を受賞された南部先生提唱のひも理論を発祥とする超ひも理論というのがある。

ただし、超ひも理論は余りにたくさんの次元を仮定しているので実験で確認するのは、少なくても、現在のところは大変難しいと言わざるを得ないというのが、大きな問題点として挙がっている。仮説-検証という科学の方法論としての検証の部分ができないから。正しいだろう、と言うだけでは、科学ではない。科学は、誰がやっても同じになる、ということが求められるからね。それは、物質の運動に関しては、未来予測が可能であるということでもある。

量子物理学の理論的な研究は、そういう感じでまだまだ進んでる一方で、実験で確かめられる物としては、ヨーロッパでいま稼働し始めているLHCだったかそんな名前の超高性能加速器で重力の量子理論を説明するヒッグス粒子が確認されれば主だったところは終わりだろう、と一般に言われているようだ。

ちょっと話は量子物理学の方にそれてしまったが、心脳問題の方に話を戻すと、最近、茂木さんに教えていただいて(それは、ブログや著作を読んで勝手にこうだろうと思ってるだけではあるのだが)、私がテーマとして少し考えているのが、脳の基本的な表現はとても抽象的で数学の世界によく似てる、ということだ。いま、その辺の感じを感覚的に少し掴もうとしている。

あと、数学的な関係があるところでは、茂木さんの理化学研究所の元同僚で現在、金沢工業大学準教授(2009年12月10日現在)の田森佳秀さん(http://kitnet10.kanazawa-it.ac.jp/researcherdb/researcher/RJHABC.html)は記憶と脳を結びつけるのが素数の一意性を利用した、ゲーデル数かそれに類したものを利用しているのではとおっしゃってる。

取り留めがなくなってしまったが、心脳問題に関して今考えてるのはこんなところ。